今回は前回から気分をかえて、ハッセルブラッド503CWDについて、すこしだけくわしく、という話。
さて、この503CWDというのは、ハッセルブラッド博士生誕100年を記念して500台限定で製造されたモデルである。すでにこの手の情報に興味をお持ちの方はご存知のとおり、デジタルバックというCCD部を既存のハッセルのフィルムマガジンに取り付けて使用するデジタルカメラで、画素は4000*4000で1600万画素。これまでのデジタルの宿命的なハンディキャップと同様、本来のハッセルの6cm四方よりも一回り小さい画像サイズとなっている。1.5倍ほどレンズ焦点がズームされた程度と考えていい。
さてその内容に触れる前に、このモデルの存在についてすこし触れておこう。ハッセルほどのブランドの限定品ならば、僕たちの常識では即完売するとか、プレミアがついて売られているという推測が大きく働きがちだ。しかしこのモデルはさにあらず。目下のところ値崩れこそしていないようだが、依然として市中に在庫をちらほらと見受けることができる。ただし市中といっても国内で見かけることはほとんどまれで、eBayなどの海外オークションであるが・・。
僕がみかけたプレミアものは、200/500というシリアルのように、ちょっとレア性を伴うものだけだが、それでも売れている様子ではなかった。
購入価格は11000ドル超えだったけど、入国の際に相当の課税がされるのがポイントである。日本での正規価格がたしか200万円越えだからそれと比べればはるかに安いけれど。
ちなみにいまはドルが記録的に安い時期だから、昨年より10%前後安いということになるわけで、もしかしたら買い時かもしれない。ただし、RollieflexやSinarが6*6のフルサイズを発表しているので、それとの比較ということになるだろうけれど。スペックだけでいうならば、明らかに後者の製品群に軍配が上がるような気がするが・・・。なんてったって、Hy6は6*6のフルサイズだそうだからね。くわしい性能はわからないけれど。
ま、それはそれとして、どうして僕がこんな変わった(!?)カメラを入手したかという話であるが、僕はとある雑誌のポートレート写真をみてしまってからというもの、ずっと中判に心を奪われてしまったからだ。しわや毛穴までが顔に刻み込まれたウィリアム・バロウズの写真なんだけど、つまり大きな正方形CCDで人間のモノクロ・ポートレートをばっちりしとってみたいという欲望である。銀塩となると、せっかちな性格の僕には無理なことはわかっているから、デジタルを探していたのである。

ちなみにその心をうぱった写真はMAMIYAで撮られたものだけれど、マミアのデジタルもなかなかの値段であるし、デザインがSF的である。僕はどうしてもクラシックなスタイルに憧れてしまって(つまり形から入る人間である)、つまるところHasselかRollie、という結論に行き着いてしまった。で、デジタルモデルが発売されていたのがHasselというのが選択理由である。
いうまでもなく、もっと画素数の高い上位機種がHasselBladには発売されていたのだけれど、こちらもデザインはクラシカルとはほどとおい流線型だし、価格は300万円も400万円もするわけで、触手はこの旧来のデザインをした503CWDに絞られていったというわけである・・。
で、オークションで見つけた一台を知人に背中を押してもらい、えいやで購入したのがこれ。歴代の僕の買い物の中でも最大の散財系アイテムとなったことはいうまでもない。
ちなみに映画「東京タワー」の中で、オダギリジョー演じる僕がつかっているのもこのシリーズだったので(設定当時のモデルだからデジタルであるわけはありませんよ)、そのシーンを見たときはすこしうれしかった・・・。ま、ハッセルブラッドという風情のあるカメラ文化そのものに対するノスタルジー的な意味しかない話でありますが。
さて、上の写真は、このデジタルバック部分の液晶面である。(液晶部の形が変わっているので、保護シートは購入時のままのものをつけて使っているのでご容赦ください)
このデジタルバックは、いうまでもなくカメラ本体と同期しているものではない。だから、本体のオペレーションとはまったく別に、左上の電源をいれるところからすべてははじまる。
ハッセル本体は、ピントも絞りもシャッタースピード調整もシャッターチャージもすべて手動であるから、デジタル部はその動作情報をなにも感知してはいない。ただ歯車が機械的にシャッターが開閉したことだけを伝達し、デジタルバックはそのそれを信号としてセンサー部に伝達する仕組みである(おそらく)。
ファイルフォーマットはRAWのオリジナル版のみがサポートされており、jpegなどの圧縮ファイルの対応はない。したがって画像サイズも選択の余地はなく、したがって2GBのFlashカードで最大80-90枚程度のファイルが保管できる程度となる。
このRAWのオリジナル版とはなにか、ということになるが、くわしい情報はメーカーサイトなどでしらべていただくとして、使っていて一番大きい特徴は、撮影した写真に○△×のいずれかの情報を付記できることである。この操作は撮影直後、ないしは本機でブラウズ時にユーザーが下の写真の信号機みたいなボタンで指定できる。
何のためにこの情報があるかというと、本機上で、不要な写真をまとめて消去したり、あるいはパソコンに読み込む際も同様に指定して読み込むことができるというだけのものである。この情報のおかげで、通常のRAWとはデータフォーマットが異なるわけで、一般的なRAW対応ソフトをデータ読み込み時に使用することはできない。同梱されてくるFlexColorというソフトでのみパソコンで画像を表示することができるわけだ。
なお、+/-(プラスマイナス)のボタンは、レビュー時の拡大縮小である。ただし問題は、このレビューの品質である。さわゆる画素の粗いサムネール表示がこの小さな液晶にされるわけだからピント状況がはっきりと確認できないだけでなく、FlexColorというソフトにおいても同様だから、作品がどれもこれもがピンがあってないように錯覚させてしまうのである。これが使用していての最大の不満といえる。
デジタルバック部分はワンタッチで着脱可能で、下の写真のようにボタンをスライドすることでデリケートなCCD面がおもむろに露出する設計になっている。


このハッセルブラッド本体には、この限定モデルに限り503CWDと表記が成されているが、一般的な銀塩対応の503CWとまったくおなじ構造のものである。同様に、デジタルバック部も単体販売されているものと同様で、表記だけが異なる。
逆にありがたいのは、バッテリーである。デジタルバックの底部にスライド装着されるバッテリーはソニーがごく普通に市販しているリチウムイオンのLサイズパックで、販売ルートがごく限られている日本のユーザーでも追加購入が容易に行えるのがありがたい。
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CCDを含めてこのデジタルバック部の製造元情報などについては、パッケージ内には正式にうたわれていないのでここではそれ以上の情報については触れないでおく。
使用感としては、どうも赤味が強いような気がすることと(RAWなのだからあとでどうにでもなるとはいうものの)、それからコントラストが低いように感じることが多い。
明るいレンズがあまりないハッセルと、ラティテュードの低いデジタルという組み合わせはライカM8やR-D1と比較してどうもぴんとくる感じがしないので、さんさくと写真をとりたい人にはあまり手ごたえが少ないのかもしれない。
だけれど、首からぶら下げているこの筐体の存在感は強烈で、よもやデジタルとは思えないクラシックなデザイン(!)は、対象となる人の表情から緊張感をとりのぞく癒し効果においては秀逸のように思う。