世の中には自己実現を仕事に求めるタイプの人と、そうではないタイプの人がいる。
僕は、自分のすきなことを仕事にしてきたので、いうまでもなく仕事が自己実現の手段になっている。
こういう考え方の人間は、おのずと「ほかの人もそうに違いない」と思い込む習性があるようだ。それが大きな間違えであることに気づくのは、そしてまた、それまで生きてきた自分の価値観と現実とのギャップに愕然とするのは、独立創業よりかなり後の、いわゆる一般社員が入り始めてから遭遇するひょんな出来事においてである。僕はおそらく、かなりの勘違い野郎であったと思うし、それが是正されきれていない節がいまだにある。このあたりに関してはまたあとで話すことにするけど。
何がいいたいかというと、会社や仕事を自分の人生の最大目標においている人というのは、むしろごく一部の人間である、という事実こそが、もっとも大きな発見の一つなのである。
映画には主役がいればその横に脇役がかならず存在する。僕は大滝秀治さんという俳優がとても好きで、ゲーム作品に登場してもらったことがあるのだけれど、この上なく魅力的かつ独特の雰囲気の存在感をもつ役者さんである。でありながら、大滝さんは映画で主役を演じるタイプではない。だからとても長い役者人生を送っておられる。
主役を経験したスターで長く続く人はわずかである。主役しかできない存在になってしまうからではないかと思われる。
蒲田行進曲の銀ちゃんじゃないけど、主役級のスターというのは主役出演か、あるいはまったく出演しないか、その二択しかない(特別出演とかいう謎の出演形態を別とすればだが)。脇役であれば、飽きられることなく多くの作品に出ることができる。主役が変われば、その人の脇でまたちがった味を演出することができる。でも主役というのは言い方を変えると「つぶしが効かない」とでもいいましょうか、転向できない存在のことをいうのではないか、とすら思えるのである。
だから、主役としての出演を決断するには、慎重に判断しないといけない。自分が本物の「主役人生」に耐えていけるだけの資質があるのか、を。
経営者も同じように思うのである。独立して成功している社長たちには、どう考えてもサラリーマンにはなれないというオーラの人が多い。そういう人たちは、このまま自分の会社を成功させつづけるか、あるいはのっとられる/はたまた没落か、いずれにしてもふたたびどこかの会社に勤務しなおせるとはとうてい思えない人が多いのである。(そういう人の雇用は上司になる人がかなりいやがるだろうと思うし) 極端な例だけど、孫正義氏が事業に失敗し、どこかの企業に入社して再出発する、というのがどう考えてもありえない、そういうことだったりする。
だから、経営者タイプの人ってのは、組織になじめない人が多いというのは、そういう観点では「真」ではないかと思う。(その逆の、組織になじめない人が経営者向きか?ついてはまだわからないが)
そう考えていきつく結論というのはですね、そもそも人類には独立するタイプという人が一定確率でいて、そのタイプの人は遅かれ早かれ独立する運命にあるということではないかということである。
そしていったん独立して事業が失敗したときというのは、社長たる人であればあるほど、たどる運命はスター俳優のそれに似ている気がするのである。
だから経営者というのは孤独になりがちで、夜や週末には、どういうわけかおなじ経営者同士で行動することが多い。敵でありながら同志という不思議な感情がそこに芽生えるわけで。
つまり、独立を考える上で重要なのは、自分が独立タイプの遺伝子をもった人間なのか、あるいはそうでないタイプなのか、それを見極めることではないか。もし違うのであれば名脇役を目指したほうが絶対に得である。なにせ主役よりはるから長い役者人生をつくることができるからね。
さて、人はなぜ独立するのか?という疑問への答えであるけれど、僕が思うに、神様が一定割合の人間にそうプログラムしたからではなかろうか、そしてそれこそが人類をして氷河期のベーリング海峡をわたらせたエネルギーだったのではないか、と思うのである。そのプログラムの有無をきみわめる方法を僕はしらないけれどね。
そういえば何かの本で読んだことがあるけれど、アジアから北米へと海峡をわたっていった(日本人と先祖を同じくする)北米のネイティブにはO型とA型の人しか、さらに赤道を越えて南米にたどりついたのはO型の人しか存在しない、という事実に、もしかしたらそのヒントがあるのかもしれない(笑)。なにせBとABが脱落したことだけは生物学的にはっきりと証明されているのだから・・。
ちなみに僕はAB型なのである。
斉藤さんこんばんわ。
いつも真剣に拝見させていただいています。
私は小さなゲームデベロップ事業をする会社代表をする35歳の男です。
独立して9年の年月が経ち、今も尚会社をやりくりしています。
私も斉藤さんと同じくして人生最大の目標を仕事としているのですが、斉藤さんの言われるような「経営者としてのオーラ」は自分ではないと思っています。
(実際周りから見ても経営者とは思われないようです)
斉藤さんのこの文章を拝見して、果たして自分は映画でいう主役が勤め続けられるのだろうか。と自問自答してみました。
答えは残念ながらノーでした。
私なりの答えとしては、こういう結果だったのです。
優れた経営者の方々(一般的な結果ではなく、秀逸な結果を果たした方を指す)はじっくりゆっくりではなく、とても早い段階で自分の願いを叶える能力があるように思うのです。(斉藤さんもそうですよね)
私の場合、目標が創業当初から考えればかなりぶれてしまっていて、目標を見失う事もあり、時間のロスなどもあり、寄り道をしながら進んできたように思います。
これは自分自身に能力があるわけではなく、自分が足りない能力は他の人間でカバーするという事で今日までやってきたと思っています。(自分の能力ではないということです)私と違って斉藤さんや他の優れた経営者の方は自分自身で自分の夢を実現できる力を持っているのだと思います。もちろん、人との出会いやタイミングによって叶えた事もその中にあると思いますが、やはり運やタイミング(人との出会いなど)も含めてその方が実現した力だと思うのです。
ということは、一流のスタータイプと二流のスタータイプがあるのだなと思いました。
遺伝子的には独立タイプなのかもしれませんが、私は卑屈になっている訳ではなく、やはり二流スターなんだなと改めて思ったのです。
本気で思っているのですが、駆け上がれる一流スターの斉藤さんにはこれからも独創性ある魅力ある作品を作り続けてもらいたいのです。
実は私が独立するきっかけになったのは、オープンブック9003で一世を風靡したあのThe Towerを作られ、一気にあの当時クリエイターというスターダムに上られた(少なくとも私からみて)斉藤さんの(日経の雑誌に掲載されていた写真付きの)コメントを拝見した事だったのです。自分も頑張ろう!と意気揚々とゲームのメーカーになってやろうと思ったのです。残念ながら大きな要素が欠落していたのでしょうか、ソフトは完成し、パッケージまで作り、流通には流れたのですが結果、負けてしまいました。
でも、目標を改めて設定した今、少しずつですがデベロッパーとして力をつけながら頑張っています。昔からさまざまな斉藤さんの書く文章を拝見して、モチベーションを上げてもらってました。
こんな風に斉藤さんを心の励みにしながら、現代を生きる人間がいるという事実を知ってもらえればと思い投稿させていただきました。
これからも、スターとして頑張っていってほしいと思っていますし、陰ながら応援しています。私にも力がつき、斉藤さんと会える時が来たら私の中で少しスターの要素があるのかな、なんて思いたいなと考えるそんなブログでした。
斉藤さんの存在に「ありがとう」です。
乱文ご容赦ください。
投稿情報: ミラン | 2006/08/28 21:13
こんなに長く熱いコメントをもらったのは、ブログ開設以来はじめてです。まずはブログの主催者として御礼をいわせていただきます。ありがとう!!
タワーで日経新聞によく登場していたのは94年から96年くらいのことですから、ミランさんは創業してから10年くらいということでしょうかね。
僕は職業がら、新作発表の時期にはマスコミに登場することがあるのですけれど、それはマスメディアがもたらす幻影のようなもので、一流スターなどではないのです。ただの黒子です。開発者がスター扱いされていた昨今、これは若い人にいいたい、とても大切な考え方だと思っています。
とくに最近のようにソフトウェアが巨大化するに連れ、自分の一人の力があまりに無力であることを僕自身痛感しています。
でもですね、最近はこちらのプログでも時折触れているのですけど、人の力をすこしづつ信じれるようになってきたのです。これまでの僕は自分以外のクリエーターの考えを信用できない人間だったように思います。ぜんぶ自分でしないと安心できない、といったタイプ。だから個性の強いソフトができる一方で、どうしても大規模の開発では弱い・・。
こんな人間がやっている会社で人が育つわけもありません。これがワンマンの限界です。
器が小さいと実現できる作品もおのずと小さい・・年齢のせいか最近それに気づいたように思います。思い返せば戦国武将たちはみなそうでした。対象が自分で刀を振りかざしている軍勢は勝てない、と。
大玉というゲームにこめたメッセージはまさにこういうことだったんですけど、つまり、ならばもっともっと「人に持ち上げられて育つ器」をつくろう、と思い始めたのが最近です。自分らの作品に自分が影響されるというのもおかしな話なんですけどね・・。
本当に優れた経営者ってのは、何かしら優れてるものですが、それがかならずしも個人技というわけではない、という点で僕が一流というわけではなかったし、ミランさんが二流ということでもないと思います。もっともっとメンバーの力を引き出してください。
日本のソフト力が落ちている昨今、若い日本のゲームデベロッパーが力を発揮してもらわないとならない時期だと思います。
目を見張るような作品にむけてどんどんとチャレンジしてください。僕もがんばります。
投稿情報: 斉藤本人 | 2006/08/29 03:44