「自分の事業において、あなたは"マーケティング調査"をしていますか?」
そんな質問をされた時、僕は何と答えるだろう?
「いいえ、なにもしていません」
それが一番正直な答えだ。
「では、なぜあなたたちは"ヒットを狙っている"といえるのですか? その根拠は?」
そう質問されると、ほぼ困窮する。答えが見つからない。
「なぜ、何の根拠もないのに、何億円というリスクを冒してまで新作を開発しているのですか? 失敗したときに借金を返すあてがあるのですか?」
・・・これは、時々夢に出てくる裁判のシーンだ。
僕は、市場調査などというものをしない。なにもせずに、新作ゲームの企画をしてきている。ファミ通や業界雑誌などに一切目を通すこともほとんどなく、この大命題に対し丸腰で、つまりひたすら自分の中だけで答えを出そうとしてきた。うちの会社はよくも今までつぶれずに来たものだ、と思う。
僕の中では、"マーケティング調査"というのは、誰かを説得するための材料以外のものではない。 僕はもしかしたら必要以上に、そういったものから目を背けているのかもしれないけれどね。要するに、人と違っていたい、という欲求が不要に強いのだろう。こんな自分は経営者としてはどうなんだろう、と疑念を持つほどだ。
だが、マーケティング調査結果がいかに有力な情報であったとしても、幸か不幸か僕には説得すべき相手がいない。自営業者の強みも弱みも、その一言に尽きる。叱ってくれる人がいない代わりに、承認する人もいない。失敗したらただ倒産するだけである。つまりそこには説得という概念はまったく不要なのである。おのずと、おもしろい、と自分で思えるものだけを信じるようになりそれ以外の材料にはないと思っている。こうだから頑固者が多くなるのである、この手のポジションの人には・・。
しかし、さらにそこを除いたとして僕はどう考えているか、を正直に告白するとそれでも、"マーケティングをした"からといって魅力的なゲームの企画は発想できないと思っている。いや、ゲームに限らず、魅力的な商品というのが果たして考え付けるのだろうか? と、かなり斜に見ている。じつのところ、マーケティングというのは、客を馬鹿にしたような考えとしてみているふしが僕にはあるのだ。「大衆ってのは、こうすれば、いつも喜ぶんだ! これが常套パターンだよ。」なんて話を聞けば聞くほどね。
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この週末、ずっと「ビートルズ」のベスト盤をかけて車を運転してた。
後期のベスト盤(ブルージャケ版)に、「へルター・スケルター」が入っていないことに30年たってはじめて気がついた。
「へルター・スケルター」という曲は、ビートルズ作品の中でもおそらく一番カッコいいナンバーのひとつである。好きなライブハウスで唯一プレイされるビートルズ・ナンバーだ。
「ベスト盤」の定義にはいろいろな意味があるが、一般的にはセールス成績の良かった曲を集めたもの、ということになる。
セールス成績がよい、を言い換えると、「たくさんの人がよいと思った」、ということである。つまり多数決である。「へルター・スケルター」はカルトな曲なので、「イエスタデイ」や「ヘイジュード」ほど支持されていないのだろうが、ライブステージでビートルズ・ナンバーを経験した人であればダントツにかなりカッコいいライブナンバーであることがわかる・・・・(シャロン・テート)殺人事件のきっかけになった、といういわくつきだから、あまり言い過ぎるとマニアック、と片付けられてしまうけれど・・。
話は戻るが、セールス成績を「よい」の定義にしてしまうと、多数決だから、英語圏の曲が日本語曲よりも必ずいい、という結果が出る。英語に共鳴する人口の方が圧倒的に多い、という事実が、セールス成績をバックアップする。
同様に、ゲームでは、プレステ2のタイトルのほうが同クラスのGameCubeのそれよりもぜったいにいい、という結果が生まれる。
そういったさまざまな要素が絡み合って、多数決は形成される。
じゃ、売れる要素を集めればいい作品になるのか?
Noだよ、やはり。
この週末のゲームショーで、僕らはひさびさの新作を発表する。
このゲームは「北京原人育成キット」というサブタイトルがついたものだ。
この手の話をすると、「北京原人を育てたいマーケットってどれくらいだ?」という話をしたがる人がかならず現れるものだ。そんなマーケットがあるはずがない。ぜんせんないから、目を付けたんじゃないか。
エンターテイメントに限らず新商品の企画というのはカタルシスを伴う仕事だ。つまり自己実現のカタルシス。なぜカタルシスがあるかというと、そこに、ほかに頼るものが何もないからだ。自分だけを信じるからカタルシスというのであって、アンケート結果にそう現れているのであれば、商品開発のプロセスに「人間」が介在する必要などなくなってしまう。そうなるとコンピューターが商品を開発できることになる。
☆ ☆ ☆
発想した人間と同じようなセンスをもちあわせた人がとれだけいるか、それによってセールス成績はある程度決まる。同類の人口が多い人もいれば、少ない人もいる。血液型ようなものだ。
僕の血液型はAB型、いわゆるマイノリティーだ。マーケットに例えると、サイズは全体の10%、A型のわずか1/4だ。だから共鳴してくれるパイは小さい。
パイの小さいAB型の僕がなるだけ多くの共感を得るためにすることは、メジャーのA型に近づくことではなく"ABらしさ"を思い切り炸裂させること、だと思う。それこそが最良の手立てだし、自己実現のカタルシスである。それが、「ヒットしてうれしい」の定義だ。
新製品をつくるということとは、つまり新分野をつくること、鶏口牛後、なのである。
この回を拝見して、私が考えていた「自らゲームソフトを世に出す」という行為について安堵感をいただきました。
斉藤さんのされている規模とは比べ物にならないですが、私も以前(8年前)「世にゲームソフトウェアを出す」という行為を行った一人です。
私が作ろうと思ったソフトウェアは、見て美しい、侘び寂びを視覚的に得られる、日本庭園を創るシミュレーションゲームでした。
現実世界と同じように、朝が来て夜が来る、風が吹いて、空気を感じる。石が錆び、苔が鮮やかな色を見せる。
また、自然界の動物が訪れ、植物が季節によって微妙に表情を変えていくそんな美しい日本の庭園を作り、美しさで観客が動因する。
私はこのソフトに大衆マーケットが必ず存在すると確信し、ソフト制作を開始しました。当時27歳の時でした。
ソフトを作るために必要な資金を掻き集め、足りない分を国民金融公庫から調達する際、国金の担当者は、「日本庭園を創りたいマーケットがあるのか」と問いかけて来たのですが、もちろんマーケティングなんて出来ていませんでしたし、マーケティングする資金もある訳がないので、色々な白書書籍をあさり、国金から資金を借り入れる為のプレゼン資料をそれっぽく作り、プレゼンテーションを行いました。
担当者は納得いったのかいかなのか分からない無表情で話を持ち帰って行きました。
マーケティングデータの活用はしましたが、これから作るソフトを大衆が受け入れてくれる為の安心感に繋がるものではありませんでした。(結局貸してくれたのですが、理由は実家の担保です(笑))
大衆にうけるかどうか確信のない未知なるソフトを作るために、700万ほどのお金と1年間の時間を注ぎこんで製作に打ち込みました。
今まで賭け事をしたことのない当時の私にとっては大博打でした。
結果、このソフトはお恥ずかしい話ですが、資金不足の為ゲームシステムがのせられないまま、庭を創るという行為を楽しむ形に変え、発売する事としてしまいました。
内容の不完全さも然り、それ以上に私の未熟さにつきるのですが、ソフトを製作する事に大儀を置いてしまい、一番重要な、大衆への告知(大衆操作)を行う費用を取っておらず、宣伝できなかった事、流通のタイミングを完全に外してしまった事により、大衆からの反応も得られないまま闇に葬られたというのが、私のはじめての大博打した。
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どうしてそのようなソフトを作る行為に出たのか今も考える事があります。
斉藤さんが書かれている内容と同じく、自分と同じようなセンスをもちあわせた人がとれだけいるかを確認したかったというのもあったんだろうと思います。
また、当時の斉藤さんをはじめ、ゲームクリエイターのような姿に憧れを持っていたのも事実です。
「自分は大衆に対して効果的なものを提供する事ができる」と思った思い上がりの気持ちも確かにその時存在していました。
「自己表現のカタルシス」
ソフトを生み出している間に思う色々な気持ちを考えてみると、斉藤さんに失礼かもしれませんがこの言葉が、私にはモノを生み出す者にとってなんと的確なんだろうと思えます。
人間はモノを作り出す時、それが長ければ長いほど色々な事を考え、その一つ一つに一喜一憂しているのですね。そんな事を思い出した内容でした。
この回を読んで、これから先、今度こそしっかりした大衆を魅了するソフトウェアを世にだしてみようと思いました。一本くらいは誰でも作れます。
作り続ける事が価値だと。
ちなみに私もAB型です。私にも少しだけでしょうがそのようなマイノリティー性があるのかもと。
長文及び乱文失礼いたしました。
追伸:
大北京原人展の成功おめでとうございます!
私も22日 40分並んできました。私の後ろには、SCEの方々、任天堂の方々、プレスの方々が大勢並ばれていました。人に行列させる見せ方、とても勉強になりました。入り口に立っていたガードマンが斉藤さんじゃないかとかまで考えたりして(笑)
投稿情報: ミラン | 2006/09/26 15:26